教育や総合的な学習の時間として
ニホンミツバチの可能性を考える[2]

〔2〕分蜂と捕獲
 女王バチが群れの半数程の働きバチを引き連れ巣を出ることがあります。これを分蜂といいます。ミツバチが種の存続をかけて群れをふやすための手段です。春になり気温が上がると女王バチの産卵が盛んになり巣内が働きバチでいっぱいになります。この時機、雄バチも生まれ巣の周りを飛び交っています。銀バエを黒くしたような大き目のハチで針はありません。そして、すでに巣の中には4〜8個の王台(女王蜂が育つ巣穴が巣板に垂れ下がっています)ができあがっていて、今にも生まれてきそうな状態になっています。
 その日の十時頃、巣の後ろの板を開け、いつものようにどうなっているか観察してみました。この巣は小さ目に作ってあり、開けるとアクリル板でしきってあるので巣の内部がよく見れるようにしてあります。しかし、巣内はハチがぎっしり固まっていて巣板の状態も働きバチと雄バチでぎゅうぎゅうしていてよく分かりません。そこで、前板をとり巣内のハチにビニールパイプを利用し息を吹きかけるのです。そうするとハチは息を避け移動していきます。こんなにしても、ハチは襲ってはきません。とその下にはみごとな王台が四つ垂れ下がっていました。
 午後二時ころ、そろそろではないかと生徒とともに観察していたところ、巣の中にいた働きバチが次第に巣箱の外壁に固まりはじめ、大きなツララのような状態になりました。そして、何がきっかけかはわかりませんが雄バチも含め一斉にわれ先に飛び出し、巣の周りを右往左往飛び回りはじめたのです。青い空が一瞬のうちに黒い雲で覆われ、ブンブンとまさに蜂の巣をつついたような騒ぎです。見ていた生徒も驚きと感動の声の連続です。 やがて、藤棚の支えの横木に密集し蜂球をつくりはじめました。しばらくはおとなしくしていますので、その間に以前作っておいた新しい巣箱を準備します。自然の中では、蜂球を作っている間に偵察バチが、新しい巣をつくるのに都合のいい場所を探してきて(例えば巨木の空洞や家の縁の下、壁の間、木箱など)どこへともなく飛んでいってしまいます。殺虫剤を持って来て「シュー」など、とんでもないことです。
 さっそく、この時を逃さず新しい巣箱の上蓋を開け、ハチを入れます。この作業は勇気が必要です。ハチをつぶすことなくやれば刺すことはまずないといわれているので、素手で思い切ってやるのです。ハチは羽をブルブル震わせ固まっています。蜂球内に指先を入れ静かに巣箱に落とします。指先にはもぞもぞした何とも言い難い感覚が走ります。快感に感じたらプロということです。私は冷や汗をかいていました。新しい巣箱に女王バチもいっしょに入ることを願ってやります。そして、台の上にその巣箱を置き、上蓋を閉じ出入り口を大きく開けておきます。成功しました。取り残されたハチも次第に新しい巣箱の中に入っていきます。不思議です。巣箱の中に女王バチも入っていたのでしょう。次の日から、もう通っていました。逃亡することなく巣作りをはじめました。この巣箱が気に入ってもらえたようです。
 分蜂時の女王バチは新女王バチが出ていくのではなく、今まで巣作りに励んできた古い女王バチが出ていきます。始めて聞いた時は意外に思いました。しかし、考えてみれば理にかなっています。時期は五月下旬から六月上旬、春から夏にかけての蜜源がたくさんある時です。梅雨の合間をねらい、時間は午後一時前後、風もあまりない温かい日を選んで分蜂するようです。今までの財産(蜜や幼虫)が古い巣にあり新米の女王バチでもやっていける蓄えがあります。それを見越して古い女王バチが出ていき、新しい巣づくりに励むわけです。また、この分蜂に参加した働きバチが迷わないよう女王バチは特別な匂いを発しながら飛んでいることが知られています。このように、分蜂はニホンミツバチにとっては、群れをふやすため種族維持のための一大イベントです。この分蜂でしか種族を維持することができないので、命がけでしょう。分蜂現象を目のあたりにしたら、生徒らは必ず「スゲーッ」「ワーッ」と歓声をあげます。ミツバチがなせるこの凄まじさは見たものでしか味わえないでしょう。感動そのものです。


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ニホンミツバチとセイヨウミツバチ   
環境教育や総合的な学習の時間としてニホンミツバチの可能性を考える
旧奈川村のニホンミツバチ  [1]分布    [2]分蜂と捕獲    [3]危険性    [4]世話の仕方    [5]まとめ